整形外科医長  原 和比古

1.擦り傷
 擦り傷は表面に泥や砂粒が付着しています。傷の処置の第一歩はこの異物を極力減らすことです。大切なことはまずは水道水で十分に洗うことが必要です。日本の水道水は品質管理がしっかりしており、細菌の心配はありません。洗わないで消毒薬ですぐ消毒するよりも、とにかく十分洗い流すことが一番です。血液や分泌物が固まると異物が落ちづらくなるので早めに洗いましょう。その後は一般的には家庭での消毒包帯で十分ですが、ガーゼが固着したときはやはり暖かいお湯で洗い流しながらはがすと比較的楽です。
傷を乾燥させる目的のパウダー状の薬剤や赤チン等の古い薬剤は使用を控えましょう。最近ではハイドロコロイドといった材料を使ったバンソウコウが薬局で売られています。これは傷表面に固着せず、傷の治りを早くすることができ有用です。

2.切り傷
 やはりまずは傷の洗浄が大切です。少々出血を伴いますが十分に洗ってください。そのあと傷そのものをきれいなガーゼ等でおおい、しっかりと指先などで押さえ込んでください。5分ほど傷を圧迫すれば、ほとんどの出血はとりあえず止めることができます(圧迫止血)。止まらないときにはさらに局所の圧迫を継続してください。そのあと1-2mmの浅い傷ならあとは擦り傷と同様の処置となります。なお出血が心臓の動きに伴っている場合や周囲の感覚や動きのおかしい場合、内部に脂肪等が見える時などは受診が必要です。出血部以外の指の付け根や腕等を縛って行う止血(緊縛止血)は、出血を増してしまうことが多く避けてください。

3.刺し傷、かまれた傷
 いずれも感染の可能性が高く、受診が必須です。特に犬や猫にかまれた傷は見た目より汚染が強く初期治療が重要です。まず水道水で洗浄後圧迫止血し医療機関を受診してください。

4.やけど
 これも流水での冷却がまず第一です。疼痛が治まるまで冷却が必要で、30分以上かかる場合もあります。着衣の上からやけどした時には、脱がせる前に水をかけ冷やし始める必要があります。氷で直接冷やすのは凍傷の可能性があり、水道水で冷やすのがもっとも適当と思われます。手のひらや指のしわにかかる熱傷や、数センチ以上の広範なもの、水疱形成してくるものなどは受診が必要です。最近は少なくなりましたが、アロエや味噌などは絶対に塗らないでください。
【1〜4のいずれの傷も周囲が赤くなったり痛みが増強してくるとき、分泌物が増えてくる時は感染を起こしている可能性があり、医療機関の受診が必要です。】

5.打撲、捻挫、骨折
 応急処置としては安静(運動を止める、周囲を固定する)、局所の冷却(氷水入りのビニール袋が適当)、高く挙げる(患部を心臓より高くする)などです。適当な材料があれば軽い圧迫をかけると良いのですが、加減が難しいため自信がない場合には避けておきましょう。急速に腫れが強くなるときや、動作に伴う痛みが強いとき、明らかな変形のあるときは骨折が強く疑われます。上肢の怪我の場合には三角巾や風呂敷で吊るだけでも安静効果があります。骨折が疑われるときには、局所に副木(添え木)を当てその上下軽く包帯などで縛ります。骨折部より末梢(指先や足先)に感じの鈍さや皮膚の色の変化があるときには特に緊急を要します。適当な副木のないときに、指では隣接の指を、足では反対の足を副木として利用し包帯を巻くこともできます。応急処置がおわったら医療機関を受診してください。なお骨折部に傷があり骨が見えてしまっている場合(開放性骨折)には、骨は無理に戻さず救急車等で大至急受診してください。


2006年秋 35号 広報掲載






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